Q.賃貸アパートに住んでいます。階上の住人の足音や、隣室のドアの開け閉めの音がひどく、夜も眠れません。直接苦情を言うと逆恨みが怖いので、大家さんに対応をお願いしたいのですが、応じてもらえなかった場合、大家さんに何か責任を問えるのでしょうか?
A .生活音が通常我慢すべき範囲にとどまる場合は、直ちに法的責任を問うことは難しいです。もっとも、騒音が受忍限度を超え、大家さんや管理会社に相談しても必要な対応がとられない場合には、騒音を出している入居者だけでなく、大家さん側の対応が問題となることもあります。
## 1 まずは「受忍限度」を超えているかが問題になります
アパートやマンションなどの集合住宅では、階上の足音、隣室のドアの開閉音、話し声、テレビの音など、ある程度の生活音はどうしても発生します。
そのため、生活音が聞こえるというだけで、直ちに違法になるわけではありません。
法律上問題となるのは、その音が、社会生活上一般に我慢すべき限度、いわゆる「受忍限度」を超えているかどうかです。
受忍限度を超えているかどうかは、騒音の大きさ、時間帯、頻度、継続期間、建物の構造、地域性、被害の程度などを総合的に考慮して判断されます。
例えば、深夜や早朝に、走り回る音、物を落とす音、大きな話し声や音楽などが頻繁に続き、睡眠に支障が出ているような場合には、受忍限度を超えると判断される可能性があります。
このような場合にまず大切なのは、証拠を残しておくことです。「いつ」「どの部屋からと思われるか」「どのような音が」「どのくらい続いたのか」を記録した日誌、可能であれば騒音計や騒音計アプリによる測定結果、睡眠障害や体調不良がある場合の通院記録などが、後で大家さんや裁判所に事情を説明する際に重要になります。特に、音の発生源と思われる部屋や場所をできる限り整理しておくことは、後の対応をスムーズに進めるうえで重要です。
## 2 騒音を出している入居者に請求できる場合があります
騒音が受忍限度を超えている場合、騒音を出している入居者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求や、騒音行為の差止めを求めることが考えられます。
もっとも、同じ建物に住み続ける以上、直接苦情を言うことで関係が悪化することもあります。特に、相手方が感情的になりやすい場合や、嫌がらせを受けるおそれがある場合には、本人同士で直接やり取りをすることは慎重に考えるべきです。
そのような場合には、管理会社や大家さんを通じて注意してもらう、あるいは弁護士が代理人として通知書を送るなど、直接接触を避けながら対応する方法が考えられます。
## 3 大家さんにも対応を求められることがあります
では、騒音を出しているのが他の入居者である場合、大家さんにも責任を問えるのでしょうか。
賃貸借契約上、大家さんは、借主が借りている部屋を通常どおり使用収益できる状態を維持すべき義務を負うと考えられています。そのため、他の入居者の迷惑行為によって、借主の平穏な居住環境が著しく妨げられている場合には、大家さんが事実確認や注意・指導などの対応をとるべき場合があると考えられます。
裁判例の中には、集合住宅における他の入居者の迷惑行為について、賃貸人側の対応が問題とされ、賃貸借契約上の義務違反が認められ、損害賠償が認められたものもあります。
したがって、借主としては、大家さんや管理会社に対し、騒音の状況を具体的に説明した上で、騒音を出している入居者への注意・指導など、必要な対応を求めることが考えられます。
それでも大家さんが何も対応してくれない場合には、事案によっては、賃貸借契約上の義務違反を理由として、損害賠償請求などを検討する余地があります。もっとも、このような責任が認められるのは、大家さんが長期間にわたって何の対応もとらなかったなど、相当深刻な事案に限られます。
## 4 ただし、大家さんにできることにも限界があります
もっとも、大家さんが、騒音を出している入居者を直ちに退去させられるわけではありません。
大家さんがその入居者との賃貸借契約を解除し、退去を求めるためには、通常、賃貸借契約を継続することが困難といえる程度の事情、いわゆる信頼関係の破壊が必要になります。
そのため、大家さんとしても、いきなり契約解除や明渡請求に進めるとは限りません。まずは注意、改善がなければ警告、それでも改善されなければ契約解除や明渡しの検討、という段階を踏むのが通常です。
借主としても、「すぐに退去させてほしい」と求めるだけではなく、まずは注意・指導、改善がなければ警告、それでも改善しなければより強い対応を検討してほしい、という形で、段階的な対応を求める方が現実的です。
## 5 実務上は、証拠を残しながら書面で申し入れることが大切です
生活音や騒音のトラブルでは、口頭で苦情を伝えるだけでは、被害の深刻さが十分伝わらないことがあります。
そのため、まずは、騒音の日時、内容、頻度、生活への影響を記録しておくことが重要です。その上で、口頭だけでなく、書面やメールで申し入れを行い、記録を残しておくことをおすすめします。
申入れの際には、次のような内容を具体的に記載するとよいでしょう。
- いつ頃から騒音が続いているのか
- どの時間帯に、どのような音がするのか
- どの程度の頻度で発生しているのか
- 睡眠不足や体調不良など、どのような影響が出ているのか
- まずは注意・指導などの対応を求めたいこと
それでも改善しない場合には、弁護士を通じて、大家さんや管理会社に対して正式に対応を求めたり、騒音を出している入居者に対して通知書を送ったりすることも考えられます。
