Q.私は、中小企業経営者です。従業員は家族含め3人です。先日、DX業者が私の会社に営業にやってきて、DX関係のシステム導入の説明をしてきました。私としては、ニュースなどでDXの話をよく見聞きしていましたので、その営業マンに契約をしたい旨を伝えると、50人まで対応可能なシステムの導入を勧められ、会社名義で契約をしてしまいました。
後日、息子にこの経緯を相談したところ、50人分も必要ないし、パソコンもうまく使えないのだから解約した方がいいと言われました。
そこで、私は、この契約をなかったことにしたいのですが、何かいい方法はないでしょうか?
A.事業者として一度締結した契約を一方的に解消することは、原則として簡単ではありません。
しかし、法的に契約の有効性等を争うことができる可能性は残されています。
1 「クーリング・オフ」は使えない
まず、契約解除の手段としてよく知られている「クーリング・オフ」ですが、残念ながら今回のケースには適用されません。クーリング・オフは、主に不意打ち的な勧誘から一般の「消費者」を保護するための制度です。会社名義で事業のために結んだ契約は事業者間取引とされ、対象外となるのが原則です。この点は、交渉を始める上での重要な前提となります。
2 検討できる法的手段
(1)「錯誤」による契約取消し
契約の有効性を争うための一つの手段として、民法第95条の「錯誤(さくご)」に基づく取消しが考えられます。これは、「契約の前提となる重要な事柄について、勘違いがあった」と主張するものです。
今回の場合、「従業員3名の自社にとって適切なシステムである」という認識が、契約を結ぶ上での重要な動機(前提)であったと考えられます。この動機が、営業担当者が貴社を訪問し事業規模を客観的に認識できる状況であったことから、言葉にしなくとも「黙示的に表示」されていたと主張できる可能性があります。
(2)業者側の「説明義務違反」を追及する
もう一つの手段は、業者側の「説明義務違反」を問うものです。ITの専門家である業者と非専門家である顧客との間には情報格差があるため、業者側には顧客の状況やニーズに適合した商品を推奨する義務があるとされることがあります。
貴社の状況を認識しながら、明らかに過大なシステムを提案した行為は、この説明義務に違反する可能性があります。実際に、顧客に不適合なシステムを販売した業者の責任を認めた裁判例も存在します。
3 まとめ
事業者間契約の解消は保証されるものではありませんが、ご紹介したように法的に争う余地は十分に考えられます。
本記事でご紹介した内容は、あくまで一般的な法的見解です。最終的にどのような結果になるかは、個別の契約内容や交渉の経緯によって大きく左右されます。ご自身での対応に不安がある場合や、より具体的なアドバイスが必要な場合は、ぜひ当事務所にご相談ください。本件のような事業者間の契約トラブルについても、専門的な知見からサポートさせていただきます。
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