患者の家族に対する説明義務

Q.私のクリニックの患者さんに癌が見つかり、本人に告知しましたが、積極的治療には消極的で、ご家族への説明も希望されていません。ご家族には説明しておく方がよいですか?

A.医師が患者本人に説明した上で、本人が家族への説明を望まないのであれば、医師から家族に説明すべき義務はありません。

 どのような治療を受けるかを決定するのは、患者本人です。

 

 医師が患者本人に対する説明義務を果たし、患者が自己に対する治療法を選択したのであれば、医師はその選択を尊重すべきであり、かつそれに従って治療を行えば医師としての法的義務を果たしたといえます。

 

 患者の診断結果等を第三者(家族も含みます。)に提供する場合、原則として本人の同意が必要ですが、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合で、本人の同意を得ることが困難であるときには、本人の同意を得ずに第三者に提供することができます(個人情報保護法27条)。

 

 たとえば、本人が治療を拒否している場合に、家族からの説得を試みるため、本人の同意なく家族に説明することが考えられますが、法が許容する本人同意の例外に該当するかどうかについては、慎重な判断が求められます。

 

名古屋地判平成19年6月14日

前立腺癌の告知を受けた患者が、治療を拒否し、死亡した事案で、医師は患者の選択を尊重すべてきであり、患者が癌の告知を受けながら適切な治療を拒否した場合、医師には患者の家族に対し癌の告知をする義務はないと判断した事例。