大切なものは大事に運んでもらいましょう(荷送人の告知義務)

Q.旅行会社をしています。お客様からお預かりしたパスポートを数冊、安い簡易な宅配便で輸送してもらったのに、紛失されてしまいました。このため台湾旅行がキャンセルとなり、お客様に、航空券キャンセル料や慰謝料等100万円を賠償しました。運送会社に支払うように言ったところ、運送会社からは「規約に『再発行が困難なパスポート類は発送できない』と書いてあるので、賠償はできない」「セキュリティ強化便か、郵便で簡易書留を送ってもらうしかなかった」と言われてしまいました。私達は、これまで数百回、この安い宅配サービスで、伝票に「品名:書類」と記載してパスポートを送ってきましたが、今回のような紛失はありませんでした。運送会社に損害を賠償してもらえないでしょうか。

A.一部は賠償を受けることができますが、あなたの過失分が差し引かれます。

 運送会社は、運送約款に基づき、預かった物を宛先に持参する契約上の義務があります。比較的安い宅配便サービスといえども、「紛失」されたのであれば、宅配便会社に重過失が認められ、賠償が認められる可能性が高いです。

 

 しかし、多くの宅配便を取り扱う会社では、パスポートなど再発行が困難な書類の発送は、専用のセキュリティを向上させたサービスや簡易書留など以外では配送を引き受けてもらえません。

 

 あなたの会社では、これまで、数百回、安い宅配便サービスを利用して、パスポートを輸送してもらって事故がなかったとのことですが、単にこれまで「運が良かった」というべきです。

 

 このため、運送会社は、「品名:パスポート」と記載してあったり(この場合、利用を断られる可能性が高いです)、安全性を向上したセキュリティ強化便の品物であれば、紛失しないように、通常よりも注意をして配送を行っていたと考えられます。

 

 そうすると、紛失したことについて、あなたの会社にも「落ち度」(過失)があります。運送会社が責任を負うのは、あなたの会社の過失を差し引いた額に限られることになります(過失相殺)。

 

 あなたの会社と同様の事態における裁判例として、東京地方裁判所平成元年4月20日判決(判例時報1337号129頁)があります。この判決では、運送会社に運送契約における債務不履行及び重過失が認められましたが、荷主側に3割の過失があるとされ、7割の請求が認められました。

 

 過失相殺の割合については、事情によって様々ですので、一度、弁護士にご相談ください。

 

 今後にそなえて、パスポートの輸送方法については変更しましょう。すくなくとも代替性のない重要物であることを明示したうえで輸送を依頼すべきです。また、事業運営上の過失によって賠償責任が生じた場合にそなえて損害賠償責任保険に加入しておくのが良いでしょう。

 

 福岡リーガルクリニック法律事務所では、このような契約上のトラブルにからむ過失相殺の割合の検討や損害賠償請求はもちろん、再発防止のための対策についても、法律相談や顧問弁護士としてアドバイスをさしあげています。お気軽にお声がけください。

 

(料金の目安)

法律相談:30分6000円(税込)〜

企業の顧問契約:月額3万3000円(税込)〜