役員変更登記、忘れていませんか?「知らなかった」では済まされない過料の話

Q.小さな会社を経営しています。数年前に役員が辞任したのですが、日々の業務に追われ、変更登記をすっかり失念していました。今さらですが、登記を怠ったことに対する罰則(過料)はあるのでしょうか?何年も前のことなので、時効になっているのではないかと期待しているのですが…。

A.残念ながら、役員変更などの登記義務違反に対する過料に、法律上の時効はありません。裁判所の判断では、たとえ10年前の登記懈怠であっても過料の対象となりうるとされています。登記忘れに気づいた場合は、速やかに手続きを行うことが非常に重要です。

会社の役員に変更があった場合、法律(会社法)に基づき、定められた期間内にその旨を登記する義務があります。「うっかり忘れていた」「手続がよく分からなかった」という理由で放置してしまうと、ある日突然、裁判所から「過料(かりょう)」の支払いを命じる決定が届くことがあります。

 

## 1. 意外と知らない「過料」の正体

 

登記懈怠(登記を怠ったこと)に対して、刑事罰ではありませんが、金銭的制裁として過料の決定がされることがあります。

 

例えば、取締役の就任・辞任などがあったにもかかわらず、法定期間内(通常は2週間)に登記をしなかった場合などがこれにあたります。過料は、裁判所が決定し、100万円以下の支払いが命じられる可能性があります(会社法第976条)。実際のところは、3万円から10万円程度の事が多いようです。

 

## 2. 過料には「時効」がないって本当?

 

多くの方が「何年も前のことなのだから時効だろう」と考えがちです。

 

しかし、裁判実務では、登記懈怠に対する過料について、以下のような理由から「時効」を適用していません。

 

- 過料は刑事罰ではないため、公訴時効(刑事事件の時効)は適用されない。

- 民法上の消滅時効も適用・準用はされない。

 

これは、登記という制度が会社の重要な情報を公示し、取引の安全を守るためのものであり、その秩序を乱したことに対する制裁は、時間の経過によって免れるべきではない、という考え方に基づいていると考えられます。東京高裁昭和48年11月12日決定や福岡高裁昭和50年9月9日決定でも「秩序罰である過料には公訴時効や消滅時効の類推適用はない」とされています。この「時効なし」ルールについては、法学者からの批判も根強いですが、現在の裁判所の運用では、時効等の主張は、なかなか通用し難いといえます。

 

つまり、どれだけ昔の登記懈怠であっても、裁判所は過料を科すことができるという考え方で運用されていることになります。

 

## 3. 確定後に会計法上の「時効」が発動するだけ

 

会計法30条では「国の金銭債権には原則5年の時効」とされていますが、これは過料の「確定後」に限った話です。

 

つまり…

- 登記懈怠 → いつまでも過料に処される可能性あり  

- 過料決定が確定 → そこから5年間で消滅時効が進む

という流れになります。

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## 4. もし過料決定の通知が届いてしまったら

 

裁判所から過料決定の通知書が届いてしまった場合、まずは慌てずに内容を確認してください。

 

時効の主張は困難ですが、決定が前提としている事実関係に誤りがある場合、異議申立を行えば、決定が取り消されたり変更される可能性があります。ただし、異議申立は、通知を受け取ってから1週間以内に行う必要があります。

 

「どうせ覆らないだろう」と諦める前に、まずは専門家にご相談ください。

 

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## 5. 特に注意!こんなケースで登記懈怠は起こりやすい

 

- **役員の任期満了と重任**:同じ人が役員を続ける場合でも、任期満了ごとに「重任」の登記が必要です。これは特に忘れられがちです。

- **代表取締役の住所変更**:代表者が引っ越した場合も登記が必要です。

- **役員の結婚による氏名変更**:役員の姓が変わった場合も変更登記の対象です。

 

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## 6. まとめ

 

会社の登記は、社会的な信用を維持するための重要な手続きです。登記懈怠に対する過料には時効がなく、いつペナルティが科されるか分かりません。

 

- 役員の任期をきちんと管理し、変更があった際は速やかに登記する。

- 登記懈怠に気づいたら、放置せず直ちに手続きを行う。

- 過料決定の通知が届いたら、すぐに専門家に相談する。

 

定期的な法務チェックのためにも、ぜひお近くの専門家をご活用ください。

 

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